ストレスと口腔(1)
ここ十数年、歯科治療における技術や材料の進歩に伴い、歯科医療に対する考え方そのもののパラダイムシフトが起きています。かつて国民皆保険時代には、過剰な患者さんを受け入れる歯科医療機関が不足し、必然的に治療は主訴のみの「歯牙1本単位の治療」でした。その後歯科大学の新設ラッシュの結果、歯科医師過剰となる中で歯牙及び口腔の重要性を患者に説く「一口腔単位の治療」が主流となり、さらに近年の「口腔と全身の関連性を考慮した治療」と変遷してきました。更にそのうえストレス社会の今日では、歯科疾患の発症原因として患者の背景にある心理的・環境的な問題にまで追求した、全人的歯科医療(ホリステイック・デンティストリー)の必要性が叫ばれてきています。
現代はストレス社会であると云われています。近代化社会における急激な社会構造の変化に伴い、身体的かつ肉体的なストレスに起因した疾患が多発し、深刻な社会問題となってきています。持続的で慢性的なストレスは、自律神経系の撹乱による内臓消化器の疾患や、副腎内分泌系の鬱血や出血を惹起し、免疫系の疾患を誘発することが知られており、さらに過剰なストレスによって脳の障害も加速的に増加していることが指摘されています。ストレスまたはストレス状態とは、主として心理社会的ストレッサー(外部刺激)によって生じる、心身両面にわたる生体機能の歪み、と定義づけられています。今回は何回かに分けてストレスと口腔の関係について述べてみましょう。