歯科と舌診
舌は本体である舌質とその上に生えている苔すなわち舌苔に分けて観察します。舌質を観察することで、臓器の虚実(不足か過剰か)を識別することが出来ます。また舌苔を見ることで胃気の清濁と外邪の性質を知ることが出来ます。当院では舌診で得られた患者さんの情報により、初診時に行われる東洋医学的体質診断と併せ患者の体質を分類し、歯科治療の参考にしています。
健康的な舌は、血液の色が透過したような薄いピンク色をしていて(淡紅舌)、表面はビロードの布地のような潤いのある白い苔が薄っすらと付いています(薄白苔)。身体に熱が篭れば、舌が赤みを帯び、反対に貧血や冷えがあれば舌は白っぽくなります。また血が滞る「?血」状態であれば、舌に青紫の斑点がついたり、舌そのものが紫色が強くなります。
舌苔の大半は食物残渣や舌の細胞のかけら、そして口腔内の常在菌や白血球の残異物で出来ています。舌苔は日々色やその厚みが変化しますから、ご自分の体調の変化を見てとる事に役立ちます。毎朝舌苔を観察した後に、専用の舌苔清掃用器具(タンクリーナーなど)で、舌の掃除をすると良いでしょう。インドの伝承医学であるアーユルベーダでは、朝の舌掃除は健康に良いとされています。
また舌の裏の舌下静脈の状態で血液の流れがチェックできるため、舌診の際には舌裏部の静脈に腫れや静脈瘤の有無を見ます。診療当日に舌下部静脈(解剖学的には舌深静脈)に怒張があると、血液循環の滞りや体力低下が見て取れます。そこで血圧測定を行うと、通常値より血圧の上昇を確認出来ることがあります。そのような場合には局所麻酔を使用した抜歯や神経を取るような歯科治療は中止したほうが良いでしょう。このように舌診を応用した東洋医学的(漢方医学的)診断は、医療事故を未然に防ぐだけでなく、神経を取るか残すかの判断や歯周病罹患度やその予後の判定に大いに参考となります。