口中調味と口福
最近脚光を浴びている和食、それも普段の日常食としての日本食の食べ方に「口中調味」という言葉があります。主食として米の味しかしない白いご飯を口の中で咀嚼しながら、副食としてのおかずを口に放り込み、主食・副食両方の味を混ぜて飲み込むという食事スタイルです。私が毎夏訪れる長野県の東御市の里山のヴィラデストという農園とワイナリーのオーナである玉村豊男氏はその著書の中で、「口のなかに入れた食物の咀嚼を途中で止めたまま、口を半開きにしておいてそのまま次の食物や液体を放り込むのは、けっこう微妙な運動神経を必要とする作業です。(中略)そもそも彼らにはそんな高等な技術を要する芸当はやれと言われてもできないのです。欧米人は、ほぼ例外なく、できないと断言してよいでしょう」と述べています。
食に関するエッセイが多く自身も欧風レストランを開いている玉村氏も述べている通り、欧風食は一皿一皿が完成されており、その味は区切りの中で最初から最後まで味が不変であることが「口中調味」を行う和食との違いかと思います。日本人の味覚が欧米人のそれより繊細であったのは昔の事、現代の若者はファーストフードをはじめとしたバリエーションの少ない少数の食品を食べ続けることに慣れ、口中調味力がすっかり落ちてしまったとも言われています。
本来美味しいものを食べて感じる幸福感を「口福」と言いますが、私はこの「口福」の意味を、口の中が健康であることにより全身が健康になり、食物を美味しくいただくことが出来る幸せ、と考えています。口中調味が出来る口腔内環境を作り出すことが口福という訳ですね。